大判例

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福岡高等裁判所 昭和25年(う)151号 判決 1950年6月28日

被告人

永木正人

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

但本判決確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

弁護人塚本安平の控訴趣意第一点について。

第一回公判調書の被告人の供述を調べてみると被告人は検察官の起訴状の朗読直後「その通りであつて別に争うことはない」旨を述べ、かつ裁判官の「本件の事情については警察で詳しく述べているようであるが、その通り相違ないか」との問に対し「その通り間違いありません」と答えてはいるがその直後裁判官の「時計を盜んでどうするつもりであつたか」との問に対し「冗談でかくしたことですから別に盜んでどうしようという気持はありませんでした」と答えている以上被告人の供述を全一体として通算すると被告人が領得の意思をもつて事件の時計を奪取したこと即ち、窃盜の事実を自白しているものとは認められない。もちろん最後の問答を取り除けば窃盜行為を自白したものと解されるが、一つの事柄に対する同一時における供述を擅に切断して該供述に特定の意味を附することは許されない。されば原判決が右被告人の原審公廷における供述を判示と同旨(即ち窃盜行為の自白)と解し、これを事実認定の一証拠としたことは違法であつて弁護人の原判決はその理由にくいちがいありとの論旨は理由あるに帰する。

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